1960〜1979年の演奏


ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1962)




CD1(DGG POCG5033)
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  7:10/9:57/4:54/8:53
 (第1楽章リピート:ワインガルトナー版)
CD2(DGG POCG90291) 
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  7:08/9:54/4:52/8:51
 (第1楽章リピート:ワインガルトナー版)
LP(DGG MG 4004)
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
   7:09/9:56/4:52/8:51
 (第1楽章リピート:ワインガルトナー版)
CD3(DGG 463 088-2) 
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
 (第1楽章リピート:ワインガルトナー版)
CD4(INTENSE 600 339) 
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
 (第1楽章リピート:ワインガルトナー版)

 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
   ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
   録音1962年3月9〜12日

 このカラヤンの「運命」の録音はLP時代にシューベルトの「未完成」とのカップリングでどこのレコード屋さんにもありました。これは1966年のテレビ放送と1970年の来日公演で日本中に人気を博したことから、眼をつぶって指揮をする「カラヤン」の名前が有名になり、大変よく売れたレコードでした。LPは第9との2枚組みでしばらく聴いていましたが、新しいカッティングで発売された時に全曲買い直ししました。実に瑞々しい音がします。カラヤンの響きを作るための最も重要なホールだったイエス・キリスト教会の残響の美しさはフィルハーモニーよりもきれいでした。
 交響曲第5番の演奏はトスカニーニのように速いテンポで入る第1楽章はレガートで弾くことで曲の硬いイメージを無くしています。しかも明るい音色はこの曲の暗いイメージを変えるほどのインパクトがあります。ホルンのファンファーレはフィルハーモニア盤同様に大変力強く、スフォルツァンドもはっきり演奏しています。フェルマータのあとの間の取り方は残響を生かしたものでこの曲の魅力を充分に引き出しています。展開部のうまさは特筆ものです。この時期のホルンにはザイフェルトもおりませんがこのころのホルンの響きは最もホルンらしいです。ローター・コッホのオーボエ・カデンツァはこの演奏の魅力のひとつです。なお再現部のファゴットのファンファーレではホルンだけで演奏しているように聞こえます。この演奏ではなんと言ってもティンパニのうまさと音の良さがポイントです。第1楽章は最後まで魅力たっぷりの演奏でした。
 第2楽章の歌い方(ドルチェです)はさすがにオペラ指揮者カラヤンだけに美しいことこの上ないでしょう。この時の木管にはフルートのツェラー、オーボエのコッホ、クラリネットのライスターという名手が揃っており、それがこの楽章を聴く楽しみです。第1変奏でのフルートの明るい響き、全合奏のディミヌエンドの完璧さ、第2変奏のフルート、オーボエ、ファゴットの作る音は溶け合って何の楽器で演奏してるのかがわからないほどです。勿論木管四重奏の美しさは最高の贅沢です。ただしフルートは2本使っているようで、フルートの音が強くなっていました。その後のクライマックスも見事な響きを作っていました。ここもレガート奏法の極致です。
 第3楽章は速めのテンポで入り、ホルンの強奏が見事です。トリオのフーガは驚きの緻密さであり、低弦の厚みのある音が印象的です。カラヤンの5つの演奏の中では最高の演奏でした。これがフーガですね。後半の弱奏部分は管楽器が目立ちすぎない程度に抑えた見事なものです。それだけにクレッシェンドの効果がたまりません。
 フィナーレの重厚さは何度もリハーサルを重ねたかのような緻密で調和の取れたものでした。ホルンの主題もたっぷりと響いています。ティンパニの重々しい響きも見逃せません。このフィナーレの最もこの曲らしい響きが鳴り響いています。展開部も見事です。第3楽章の回想は抑えに抑えたものでオーボエのメロディーだけが流れます。再現部は提示部同様に厚みのある見事なものです。たくさん第5を聴いた中でもこの演奏は心が落ち着く不思議な演奏です。コーダからもホルンの主題ピッコロの上昇音と続く流れもよどみ無く、一気にプレストに突入します。しかしここはピッコロを抑え気味にすることでことさらにスタンドプレーになるのを避けているようでした。最後は圧倒的です。

 もしも胸のすくような演奏があるとしたらこんな演奏をさすのでしょうか。冒頭からさわやかな印象を受けます。響きの美しさは教会の持ち味であり、神々しさが感じられます。カラヤンの目指した「響き」のひとつの到達点だったと思います。次がフィルハーモニーで作る響きであったことはいうまでもありません。
 CD3はドイツ盤の全集です。CD4はEU盤の全集です。


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