1929年までの演奏

アルトゥール・ニキシュ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団


CD1(POCG-2126) 6:41/9:44/5:30/8:54
CD2(EMI新星堂SGR-7158)6:50/9:59/5:40/9:09
LP(HR-1032-EV) 6:36/9:37/5:27/8:51

 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  (リピート無し:ワインガルトナー版)

 アルトゥール・ニキシュ指揮
  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  録音 1913年11月10日

 ニキシュの録音をLPで初めて聴いたときは、とても聴けたものではありませんでした。冒頭の運命の動機が「ダダダダーン」ではなくて「ピョピョピョピョー」という感じの音で、楽器の音を聞き分けることもなかなか大変でした。ヴァイオリンもラッパのついた録音用の楽器ですから繊細な音ではありません。
 もう30年もお蔵入りでしたが、今回久々に音を出しました。ひどい音です。ところがうれしいことにCDが出ました。しかも信じられないほど、クリアな音です。楽器の違いがよくわかり、オーボエやクラリネットはよくわかります。これでやっとニキシュの音楽作りが見えてきました。なおCD2の新星堂盤はトラック4が第4楽章の再現部からになっていますので注意が必要です。演奏時間は実際の第4楽章の実測タイムです。音質はレヴェルの点でもDGG盤のほうが若干良いと思いました。

 交響曲第5番の演奏は第1楽章の冒頭のテーマをしっかり強調してフェルマータもたっぷり伸ばしています。第2主題のポルタメントはこの時代の特徴でしょう。ワインガルトナーと同じです。展開部でも木管や金管がはっきり聞こえますので音の古さは感じません。オーボエのカデンツァがチャーミングです。そのあとの間はたっぷり取っています。ファゴットのファンファーレにはホルンを重ねてしっかりと強調しています。コーダ前のテーマも強調していました。ティンパニはここではっきり聞こえます。
 第2楽章は冒頭の主題がポルタメントをかけた粘っこい演奏が気になりますが、弦のがんばりに脱帽です。そのあとの金管ははっきり聞こえてきます。第2変奏のピツィカートと低弦の演奏は見事です。木管の四重奏はきれいに響いてくれます。第3変奏の木管は8分音符をきれいに伸ばして演奏しています。そのあとのクライマックスでは弦楽器の少なさがはっきりわかります。ヴァイオリンが可愛そうなくらいに響きます。といってもはっきり聞こえますが、まるでソロで演奏してるような音です。低弦のリズムはきちんと響いていました。
 第3楽章は冒頭のリタルダンドのフェルマータを長く伸ばしています。そのあとも同じような伸ばし方で演奏しています。トリオのフーガはさすがにベルリン・フィルで見事な仕上がりです。後半もリタルダンドのフェルマータを長く伸ばしています。ヴァイオリンのピツィカートはきれいです。フィナーレまでの弱奏部分も見事です。
 フィナーレはさすがに編成の少なさで厚みはありませんが、充分な響きを出しています。ホルンの音もよく響いています。展開部のフルートはきれいでした。第3楽章の回想ではクラリネットのほうがオーボエより目立っています。再現部は冒頭と同じように響きます。ヴァイオリンのポルタメントが若干気になりました。273小節からのドーシラソソソという主題のところで少しテンポを落としていました。コーダに入ってホルンのテーマの前の和音はきれいでした。ピッコロの上昇音が弱いのは仕方のないことでしょう。しかしながらプレストからの見事な演奏はさすがにベルリン・フィルです。

 このCDは一気に聴いても疲れませんでした。ニキシュは良い録音を残してくれました。この20世紀初頭の演奏はレコード録音の夜明けに相応しいものといえます。


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