1950年代の演奏

エーリヒ・クライバー/ベルリン・シュターツカペレ(1955)
CD(Archipel Records ARPCD 0321)

1.ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  (7:09/8:46/4:48/8:42)
   (第1楽章リピート:原典版)
2.チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調Op74「悲愴」

 エーリヒ・クライバー指揮
  ベルリン・シュターツカペレ(1)
  ケルン放送交響楽団(2)
  録音 1955年1月28日ライヴ(1)
      1955年3月28日ライヴ(2)

 ウィーン生まれの指揮者エーリヒ・クライバーはベートーヴェンの交響曲を数多く演奏していました。このライヴ録音は1955年のものでこの年には北西ドイツ放送やケルン放送にも客演して「運命」の演奏をしていました。
 ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」はベルリン・シュターツカペレの演奏、速いテンポの第1楽章が冒頭から力強く響きます。ホルンのファンファーレは大きく強奏していて熱気を感じます。緊張のあまりか若干の乱れがライヴらしいです。展開部での弦楽器の厚い響きと管楽器の対話は切れ目無く凄い演奏になっています。そててオーボエのカデンツァではフェルマータのあとに間をおいて一息入れています。クライバーとしては唯一のものです。再現部ではファゴットのファンファーレをファゴットで演奏しています。怒濤のコーダは音の渦です。
 第2楽章はやや速めのアンダンテ・コン・モトですが、若干のテンポルバートを使いながら主題を歌わせています。第1変奏、第2変奏への管楽器の受け渡しの見事さに驚きました。音にとぎれがないこの演奏はクライバーの豊かな音楽作りの素晴らしさを感じます。第3楽章の序奏のリタルダンドと続くホルンの強奏にびっくりです。またスピードに乗ったフーガの凄さは驚きでクライバーの演奏の中でも最も力の入った演奏でしょう。経過部のヴィオラの装飾音がよく聞こえています。フィナーレは重厚な響きの冒頭が見事です。第2主題の運命の動機が大変印象的で流麗かつ力強く進みます。展開部も素晴らしく、また第3楽章の回想はテンポが速くてあっという間に再現部に入ります。和音の後に入るコーダのホルンの主題は実にきれいです。プレストからが圧倒的で382小節から385小節のヴァイオリンとヴィオラのりズムの刻みもはっきりと聞こえます。最後のフェルマータまで息をもつけない演奏でした。この「運命」は父クライバーの演奏の中でも最もエネルギッシュな演奏といえましょう。音質はあまりよくありません。
 チャイコフスキーの「悲愴」はケルン放送の保存状態がよくて大変きれいな音質です。クライバ−は「悲愴」を1953年にパリ音楽院管弦楽団とスタジオ録音を残しました。このケルン放送の演奏では第1楽章の第2主題の哀愁的なメロディを表情豊かに歌わせており感動的です。またテンポの変化もあって聴く者を引きつけます。展開部前のクラリネットの歌い方も絶品です。第2楽章の流麗な演奏も見事です。この楽章ではフィナーレと同様音の交錯が特徴ですが、この楽章で聞こえるホルンの音でよくわかります。第2主題で聞こえるティンパニのD音が胸に響きます。第3楽章始めに聞こえるヴァイオリンのピツィカートに驚きます。弾けています。フィナーレの冒頭に響く弦楽器の嘆きともいえる主題は悲愴感を感じるほどに凄い演奏です。これほど嘆きを感じる演奏は聴いたことがありません。この冒頭を聴くだけでも価値のある演奏です。超名演といっても過言ではないでしょう。


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