1980〜1999年の演奏

クリストファー・ホグウッド/アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック(1986)

CD1(独オワゾリール 444 164−2)
CD2(オワゾリール PROC-2334/8)全集

 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
   6:43/10:25/8:17/11:35
 (第1楽章、第3楽章、第4楽章リピート:ギュルケ版)

  クリストファー・ホグウッド指揮
   アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック
   録音 1986年8月

 この録音は古楽器としてはザ・ハノーバー・バンドに続くものでした。ホグウッドはモーツァルトの壮大な交響曲全集を録音していました。日本でも1984年の来日の演奏で新しく発見されたヘ長調K19aを演奏して有名になりました。当時このオーケストラのチューニングが話題になっていたようです。

 さて演奏ですが、ガット弦を使った弦楽器、ナチュラルホルンといった18〜19世紀の音はベートーヴェン時代の音ですから、これが聴けるのは嬉しいことです。ただ華やかな音ではないので最初は違和感があります。
 交響曲第5番の第1楽章は大変早いテンポで演奏しています。聴いていくうちに慣れてきますが、冒頭の響きが古楽器独特のもので変わっています。ホルンはナチュラルホルンの太い音が響きます。展開部でも味気ない響きの連続であり、感動は受けませんがオーケストラの技量は素晴らしいです。再現部でファゴットのファンファーレのあとに続くホルンの「ブオーン」という音が妙にほほえましく思います。コーダでホルンがバリバリ吹いていましたが、時に聞こえる朝顔に手を入れた閉止音(ゲシュトップト奏法)が新鮮に聞こえます。また20世紀の巨匠たちのように運命のテーマを強調することもなく、淡々と演奏しています。
 第2楽章は冒頭のガンバの音がなんともいえません。1楽章の早いテンポのあとで、この緩徐楽章を聞くとほっとします。楽曲の構成はよく出来ているものです。木管のフルートは柔らかな響きで黄金のフルートとは違う味があります。この楽章ではトランペットの明るい音が目立ちます。第2変奏の木管の合いの手は現代楽器とはまた違う味があります。響きが柔らかいです。木管四重奏はなんともいえない暖かさがあり、癒されます。第3変奏の木管は8分音符のスタッカートを極端に切らず16音符程度に演奏しています。聴き応えのある楽章です。
 第3楽章は淡々とした冒頭と続くホルンのファンファーレが対照的です。ナチュラルホルンの音を満喫できましょう。トリオのフーガは古楽器のために弦楽器は迫力がありませんが、見事な演奏を聴かせます。ギュルケ板によるリピートがあり、もう1度冒頭から聴けるのは楽しいことです。弱奏部分は緊張感があり、ティンパニの音が印象的でした。
 フィナーレはオーケストラの調和の取れた音が見事です。ホルンの主題は太く大きく響き、ゲシュトップト奏法による閉止音が響いてきます。提示部のリピートがあります。弦楽器が金管に押され気味なのは仕方ないことです。展開部はしっとりとした木管楽器の響きがいいですね。第3楽章の回想では癒しの響きが流れてきます。再現部の力強い響きは見事で、ティンパニの抑えのきいた演奏が良い響きを作り出しています。コーダのホルンの主題はナチュラルホルンでは大変難しいのですが柔らかく見事な演奏です。プレストは速過ぎず充分に響かせています。このオーケストラの力量の素晴らしさに感服しました。(CD2の全集は2021年発売の国内盤)


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