1960〜1979年の演奏


レオポルド・ストコフスキー/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1969-2)

CD (キング KICC8289) 
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  6:28/11:11/6:03/8:49
   (リピート無し:ストコフスキー版)
LP (米ロンドン SPC21042)
 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
    6:30/11:12/6:03/8:52
   (リピート無し:ストコフスキー版)

  レオポルド・ストコフスキー指揮
   ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
   録音 1969年9月9、10日

 ベートーヴェンの「運命」はストコフスキーの最後の録音(7度目の録音)でした。デッカのフェイズ4録音です。LPは輸入盤で買いました。ストコフスキーといえばどこか楽譜をアレンジすることで有名です。この演奏でもフレーズの強調や楽器の補強をほどこしています。
 交響曲第5番「運命」第1楽章は速すぎず、ほど良いテンポで入ります。フェルマータは短くしかも押し切るような(丁度ハエをパッとつかむような)切り方が面白いです。間をきちんと取ってから次にすすみます。ホルンのファンファーレは見事でsfをきちんと吹いています。この提示部から気になるのですが、ヴァイオリンのパートにフルートを1本重ねて吹かせているようです。LPの時からこれは耳についています。すべてそうではありませんが、pの部分以外はそのように聞こえます。展開部冒頭のホルンのレガートは実に気持ちいい表現です。ファゴットのファンファーレにはホルンを重ねています。再現部の282小節からはヴァイオリンパートにフルートを重ねているのがはっきり聞こえます。コーダ最後のテーマはテンポを落として強調していました。
 第2楽章はゆったりとしたテンポで主題を見事に歌っています。第1変奏はそれほど個性は感じませんが、第2変奏前の低弦の強調、114小節からの低弦の変奏では全合奏のリズムを抑えて低弦の主題を強調しています。第3変奏では木管が8分音符をしっかり伸ばして演奏しています。その後のクライマックスは弦楽器の見事な演奏が聞かれます。
 第3楽章はやや遅めのテンポです。ホルンのテーマはよく響いています。ここでストコフスキーは38〜41小節で木管のsfにトランペットを重ねたり、90〜93小節ではヴィオラとオーボエのsfにトランペットを重ねて強調しています。トリオのフーガは弦楽器のそれぞれのパートがフーガを演奏するところだけを強調するという独特のわざをみせます。これはテーマの強調のためと思いますが、逆に合奏の楽しさが失われています。後半の弱奏の部分は緊張感があります。339小節のヴァイオリンのメロディーからすでにクレッシェンドがはじまって一気にフィナーレに入ります。
 フィナーレはバランスの良い堂々とした響きで始まります。ストコフスキーは内声部の隠れた音まで強調してこの曲の魅力を引き出そうとしていました。ホルンのテーマを強調しないのは片手落ちかと思いました。展開部はまた恐ろしく熱い演奏です。第3楽章の回想で一息ついて再現部はここも圧倒的です。フェイズ4録音のマルチ録音を駆使した響きを作り出しています。これはレコードのための録音、すなわちストコフスキーのねらいどおりの録音になっています。329〜334小節と346〜349小節でピッコロの上降フレーズを強調していますがフルートとピッコロのスタンドプレーのような録音になっています。プレストからも圧倒的で、428〜431小節のファゴットと低弦の上昇下降のフレーズをしっかり強調しています。

 かなり癖のある演奏でしたが、この曲を面白く聴かせることに関しては一級品でしょう。魔力のような魅力があります。


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