1980〜1999年の演奏

シプリアン・カツァリス(ピアノ)(リスト編)(1989)


CD1(TELDEC 4509-97954-2)
CD2(TELDEC WPCS-10380)
CD3(TELDEC 2564 60805-2)全集

 ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
 7:24/11:06/6:27/11:53
  (第1楽章、第4楽章リピート リスト編)

  シプリアン・カツァリス(ピアノ)
   録音 1989年5月&7月

 リスト編曲の運命といえばグレン・グールドが知られていますが、カツァリスは表現力と繊細さで一味ちがう演奏を聞かせてくれます。カツァリスのベートーヴェンを聞いたのは1982年のシュべツィンゲン音楽祭で田園を演奏した時が初めてです。その演奏は素晴らしいものでした。2本の手で弾いてるとは思えない複雑さでしたが豊かな音楽を響かせていました。
 第1楽章は力強いテーマで始まり、つづく主題がハ短調であることが実によくわかる響きです。この提示部はピアノで弾くのがかなりきついようですが見事な指さばきを披露しています。間の取り方もなかなかにくいです。再現部で第2主題が歩くテンポで弾かれると、運命という曲の原点を聴いたような気がします。ピアノ版ではもっとも楽しめる演奏です。
 第2楽章はピアノ版の聞き所でしょう。この美しいメロディーをどう弾くのか、そして聞くほうもピアノの音をオーケストラの楽器と重ねて聴きますので、どんな音楽になるのか楽しみです。それにしてもpの和音はいいですね。オーケストラばかりが「運命」を聴く手段でなくともいいと思いました。聴いているとこれはピアノ曲だと勘違いしてしまうほど見事な演奏です。あの「展覧会の絵」のピアノ原曲を聴いたときの驚きに似たものがあります。
 第3楽章は遅いテンポですがきれいな響きを聴かせてくれます。フーガを弾くにはギリギリのテンポでしょう。そのフーガは凄い演奏です。フーガだからこそピアノの本領を発揮できるのでしょう。迫力満点でした。フィナーレまでの経過部の緊張感もまた絶品です。
 フィナーレは大きな音楽を作っています。提示部を聴いていくと内声部の音がよく聞こえます。ピアノで聴くのも新鮮でいいものです。カツァリスはピアノ版の良さを教えてくれたように思います。提示部のリピートもまた楽しめます。展開部がこれほど面白いと思ったことはありません。ピアノ版だからこその絶妙な響きが聴かれます。3楽章の回想はまたオーボエよりもピアノのメロディーの美しさがたまりません。コーダも見事でした。 
 こんな見事なピアノ曲ができてしまうとは、さすがベートーヴェンはピアノの大家ですね。リストの編曲もまた素晴らしいです。そしてカツァリスによってその真価が認められたと言っても過言ではないでしょう。


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