田園交響曲

フェルディナント・ライトナー/NHK交響楽団(1986)
CD(NHKCD KKC-2039/40)2枚組

CD1
1.ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
       (第1楽章、第4楽章リピート:原典版)
2.   〃   /交響曲第7番イ長調Op92
CD2
3.ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第2番Op72a
4.   〃   /交響曲第6番ヘ長調Op68「田園」

  フェルディナント・ライトナー指揮
   NHK交響楽団
   録音 1983年年7月8日ライヴ(1)
       1981年3月14日ライヴ(2)
       1981年3月18日ライヴ(3)
       1986年5月7日ライヴ(4)
       NHKホール

 ドイツの名指揮者ライトナーのベートーヴェンはスタジオ録音がありませんのでN響とのライヴがCD化されてようやく「運命」や「田園」が聞けるようになりました。大オーケストラによるベートーヴェンの本来の響きがまさにこの演奏でしょう。
 「運命」はやや遅めのテンポの第1楽章は冒頭の主題がずっしりと重い響きで始まります。フェルマータは長いです。ホルンのファンファーレはホール一杯に響き渡ります。ヴァイオリンの主題と下で支える低弦の響きが凄いです。最近はこの響きがすっかり聞かれなくなりました。展開部では弦楽のクレッシェンド効果、管のきれいな響きがあります。弦のレガートは荘重に響きます。オーボエのカデンツァはアダージョですからこうありたいものです。再現部のファンファーレはファゴットで吹いています。コーダへの経過部の響きは厚みがあります。楽章を通じてティンパニの重い響きが素晴らしい。コーダは主題の強調と終結の厚い響きが圧倒的です。
 第2楽章は遅めのテンポで歌う主題が大変きれいです。この主題の歌い方最後の1音の押さえ方など絶妙です。また管楽器が大変きれいに響いています。木管四重奏は理想的な響きで、本来こうありたいものです。スタッカートとテヌートが大変きれいです。第3変奏のあとのクライマックスの演奏は圧倒的。コーダの低弦の響きも素晴らしく終結の和音の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。第3楽章は序奏で絶妙なリタルダンド、低弦の強調、ホルンの主題の強奏が凄いです。フーガは低弦の厚みと見事な演奏が素晴らしい。これがベートーヴェンでしょう。
 フィナーレは重厚な響きは圧倒的で、なかなかこのような響きは聞けません。ホルンと木管の主題はまさに豪快です。提示部のリピートがあります。展開部では木管のレガート、管楽器の厚い響きが素晴らしい。第3楽章の回想から再現部の盛り上げは素晴らしいです。管と弦のバランスと取れた響きと丁寧な歌わせ方には脱帽です。コーダの和音の連続、ホルンの主題が大変きれいです。アッチェルランドからプレストに入ると金管の強奏が圧倒的です。最後のフェルマータは長く、そしてティンパニの一打で終わるという「運命」らしい「運命」です。
 第7番は荘重な冒頭、美しいオーボエの響き、序奏で低弦が演奏する上昇音階の厚みのある響きが圧倒的です。提示部のフルートの主題そして全合奏におけるホルンの響きの凄いこと、千葉馨の現役時代のN響のホルンセクションも凄かったです。それにしてもこの演奏でもコントラバスの響きが凄いですが、プルトを増やしているのでしょうか。再現部の管楽器のうまさ、応答する弦楽の美しさは絶品です。コーダの低弦のフレーズの連続も素晴らしい。終結のホルンがまた素晴らしい。第2楽章のアレグレットは弦の足取りと対旋律がありますが、木管の対旋律と応答するホルンの美しい響きが素晴らしい。第3楽章は鮮やかな響きのスケルツォで強弱のメリハリをはっきりとさせています。トリオの木管とホルンの主題が大変きれいです。フィナーレがこの第七の聞き所ですが、ここでも強弱のメリハリをはっきりとさせています。ホルンの強奏のあとに弱奏がどんときます。経過部の弦楽のうまさは絶品です。しかしながらかつてこのような演奏は聞いたことがありません。コーダの圧倒的な演奏まで息をもつかせぬ凄い演奏です。ライトナーの名前を忘れることはないでしょう。
 「レオノーレ」序曲第2番は演奏機会の少ない作品ですが、第3番への改作前の2番という捉え方をする必要のない完成された作品です。その作品の理想的な響きをライトナーが引き出しています。
 第6番「田園」は冒頭から程よいテンポで進みます。さわやかな印象を受けます。低弦を押さえてバランスの良い響きになっています。提示部のリピートがあります。展開部では同じフレーズの連続がありますが、この演奏がまた素晴らしい。弦楽のうまさが際立っています。コーダのクラリネットが甘い響きでたまりません。第2楽章「小川のほとりの情景」は主題を吹くクラリネットとファゴットの融合が絶妙です。また小川の流れを表現する弦楽セクションのうまさはこれも絶品でしょう。コーダの夜うぐいす、うずら、カッコーの演奏は感動的です。第3楽章はやや遅めの演奏で、オーボエ、クラリネット、ホルンと続く主題をきれいに演奏しています。これが「田園」らしい演奏といってよいでしょう。第4楽章「嵐と雷雨」では強弱のメリハリをつけた「嵐」が凄いです。「雷雨」は「豪雨」のようでライトナーの狙い通りの響きになっています。この曲の山を見事に作っています。遠雷から嵐のあとの感謝の気持ちを歌う「牧人の歌」への流れもきれいです。ホルンの導入フレーズは角笛のようにきれいに響きます。完璧なホルンです。ライトナーのベートーヴェンはこれほど超名演とは思いませんでした。埋もれさせてはいけないでしょう。


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