第七交響曲

ペーター・シュタンゲル/タッシェン・フィルハーモニー(2014)
CD(Taschenphilhamonie ETP-010)

シュタンゲル/ベートーヴェン/交響曲全集
  (室内楽版)
CD1
1.交響曲第1番ハ長調Op21
2.交響曲第2番ニ長調Op36
CD2
1.交響曲第3番変ホ長調Op55「英雄」
CD3
1.交響曲第4番変ロ長調Op60
2.交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
CD4
1.交響曲第6番ヘ長調Op68「田園」
CD5
1.交響曲第7番イ長調Op92
2.交響曲第8番ヘ長調Op93
CD6
1.交響曲第9番ニ短調Op125「合唱付」

 アンドレア・ローレン・ブラウン(ソプラノ)
 ウルリケ・マロッタ(メゾ・ソプラノ)
 マルクス・シェーファー(テノール)
 ベルンハルト・シュプリングラー(バス)
 ペーター・シュタンゲル指揮
 タッシェン・フィルハーモニー
 (ポケット・フィルハーモニー)
  ニュルンベルク合唱団
 録音2012年5月4&5日(1番)
    2016年11月22&23日(2番)
    2014年1月23日&2月7日(3番)
    2017年7月26&27日(4番)
    2015年11月2&3日(5番)
    2014年4月15&16日(6番)
    2014年10月20&22日(7番)
    2013年3月27日&4月3日(8番)
    2016年6月4&5日(9番)

 このベートーヴェンの交響曲全集は最低限の編成でも演奏できるようにタッシェン・フィルハーモニーが独自に編曲した版による録音です。室内楽の九重奏団に管楽器とティンパニを少し加えて演奏したものです。ポケット・フィルハーモニーらしいアレンジです。
 第1番はフルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1とコントラバス1とティンパニの13人による演奏です。第1楽章の序奏から厚い響きが聴かれます。提示部は速めのテンポで進みます。管楽器の響きが豊かで弦楽の少なさをあまり感じません。演奏に勢いがあります。息がぴったりです。第2楽章は弦楽に始まる明るい響きが流れます。ここでホルンがハイトーンを吹くところはこのアレンジならではのものです。第3楽章は面白いアレンジです。ホルンにたくさんの音を与えています。弦楽の足りない分を管楽器で補っています。トリオの木管は美しい響きです。第4楽章は序奏のあとに独奏ヴァイオリンが演奏する部分がああります。これはユニークですが、本来はヴァイオリン・パートが演奏します。提示部の勢いのある演奏はこのオーケストラの得意とするところです。ティンパニも良い響きです。実に楽しい第1番です。
 第2番はフルート1、オーボエ1、クラリネット1、ファゴット1、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1とコントラバス1とティンパニの12人による演奏です。第1楽章は序奏が管楽器の厚い響きの中にあって弦楽も鮮やかな演奏をしています。ホルンは明るく目立ちます。提示部の弦楽の頑張りは素晴らしい。管楽器も良い響きです。本来は2管編成の作品をホルンだけが2本ですからホルンが忙しくなるわけです。この第1楽章では通常の版では聞こえない音がたくさん聞こえてきます。第2楽章のラルゲットは歌曲になっている主題が木管で歌われます。ヴァイオリンのソロもこのアレンジだけのものです。この演奏は楽しくなります。2本のホルンが良い響きを出しています。ここは弦楽五重奏がよく響きます。第3楽章はスケルツォ、木管楽器と弦楽五重奏の掛け合いです。トリオのオーボエが美しい響きを出しています。ここでもホルンはよく目立ちます。第4楽章はアレグロ・モルト、整然とした素晴らしい演奏が流れます。弦楽の響きとティンパニの響きが印象的です。ここまで息の合った演奏は大編成では難しそうですが、それにしてもこのアレンジでここまで素晴らしい演奏をしてくれるとは驚きです。
 第3番「英雄」はフルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、トランペット2、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1とコントラバス1とティンパニの15人による演奏です。第1楽章冒頭から緊張感のある演奏です。提示部の響きは室内管弦楽団の演奏に引けを取らないです。そしてシュタンゲルの指揮はイン・テンポばかりとはいえない表現力豊かな演奏です。提示部のリピートがあります。この演奏緻密で小編成ならではのまとまりがあります。展開部の弦楽の鮮やかな演奏とフルートの素晴らしい演奏は聞き物です。再現部の演奏も凄いです。管楽器の厚い響きとティンパニの絶妙な強さが印象的です。コーダの弦楽もよく響きます。ホルンが素晴らしい響きです。第2楽章は弦楽からオーボエに受け継がれる主題が素晴らしい。また木管楽器の良い響きが続きます。第2主題が歌われると思わず聴きいってしまう見事な演奏が続きます。展開部の弦楽も良い響きです。再現部になってもこの演奏があまりに良いので何度も聴いてみたくなります。第3楽章はスケルツォ、弦のリズムにのってオーボエが主題を演奏します。ここでもティンパニの響きが花を添えます。トリオのホルン三重奏では2本では足りないパートをファゴットが吹いているように聞こえます。第4楽章はエロイカの変奏曲を演奏する弦楽五重奏の腕の聴かせどころです。オーボエが主題を吹くと厚い響きになります。ポコ・アンダンテからのオーボエが美しい、そしてホルンが歌う主題も素晴らしい。そしてプレストからの盛りあがりは見事です。
 第4番はフルート1、オーボエ1、クラリネット1、ファゴット1、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1とコントラバス1とティンパニの13人による演奏です。第1楽章は序奏から緊張感のある演奏です。編成の少なさを感じません。提示部はティンパニが入って熱い演奏が響きます。勢いのある演奏は凄いです。展開部も良い響きです。弦楽が良い響きを出しています。再現部も見事な演奏です。これが普通の演奏に聞こえてきます。第2楽章はやや速めのアダージョです。この整然とした演奏はまさしくベートーヴェンの響きです。弦楽がソロ演奏と同じですがこの楽章はティンパニの効果が抜群です。ホルンが美しい響きを出しています。第3楽章はスケルツォのようなメヌエット、アレグロ・ヴィヴァーチェの勢いのある演奏、ティンパニも響きます。オーケストラを聴いているかのような錯覚に陥ります。第4楽章は弦楽の序奏に始まり勢いのある演奏が厚いです。ティンパニの響きが素晴らしい。フルートのきらめきも美しいです。12人の演奏とは思えない厚い響きです。
 第5番「運命」はフルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、トランペット1、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1とコントラバス1とティンパニの14人の演奏です。第1楽章は速いテンポの演奏、冒頭の弦楽とクラリネットで始まる主題が厚いです、ホルンとオーボエが加わって提示部の厚い響きが聴かれます。ホルンのファンファーレは力強いです。展開部は弦楽と管楽器の対比が良い響きです。オーボエのカデンツァは速いテンポです。再現部ではファゴットのファンファーレが力強いです。コーダ前の厚い響きも素晴らしい。第2楽章はヴィオラとチェロが歌う主題がきれいです。経過句の響きが凄いです。トランペットが1本なのでホルンのハイトーンが聞こえます。これは聞き逃せないところです。第2変奏ではクラリネットとファゴットの応答がよく響きます。木管四重奏はさすがにきれいな演奏です。第3変奏からの厚い響きは少人数とは思えないです。コーダも良い響きです。第3楽章は序奏の淡々とした演奏、ホルンの主題の響きの良さと、ここは見事なものです。フーガの演奏も鮮やかです。低弦のフレーズは息がぴったりです。フィナーレへの経過部分は弦のピツィカートがよく響きます。第4楽章は厚い響きの提示部が凄いです。またこの独特のアレンジではホルンの活躍が顕著です。弦楽五重奏の頑張りは大変なものです。足りない響きは木管が補っています。これが素晴らしい響きを生んでいます。第3楽章の回帰から再現部への絶妙な演奏も見事なものです。コーダ前のホルンの主題、木管の活躍、プレストからの厚い響きは素晴らしいです。この演奏は驚きです。爽快な気分になります。
 第6番「田園」はフルート1、オーボエ1、クラリネット1、ファゴット1、ホルン1、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1とコントラバス1とティンパニの12人の演奏です。第1楽章の冒頭弦楽の優しい響きとホルンが作る「田園」の響きがあたたかいです。シュタンゲルの指揮は歌心を忘れないもので実に素晴らしい。クラリネットの響きが素晴らしい。木管五重奏と弦楽六重奏だけでが作り出す響きが素晴らしい。第2楽章「小川のほとりの情景」は弦楽が聴きどころですが、忙しく動き回る楽器がよく聞こえてきます。この11人の演奏はベートーヴェンが書いた音をもれなく演奏しています。展開部の美しさは何とも言えません。大きな編成では味わえないものです。ファゴットとチェロのユニゾーンもきれいです。コーダの、夜ウグイス、ウズラ、カッコウの鳴き声の演奏が絶妙です。演奏が楽しそうです。第3楽章はいつもの響きとさほど変わらないといってよいほどです。オーボエ、クラリネット、ホルンが素晴らしい演奏です。この楽章はリピートして第4楽章に入ります。第4楽章「雷雨、嵐」はティンパニが加わって豪雨らしい雰囲気がよく出ています。大編成の演奏よりも雷鳴らしい響きが凄いです。かつて聴いたたくさんの録音の中でも最も雷鳴らしい演奏です。第5楽章のクラリネット、ホルンの主題が素晴らしい演奏です。弦楽が少ないので厳しいですが管楽器が補って良い響きです。「嵐の後の感謝の気持ち」がよく表現されています。11人で演奏するこの楽章は素晴らしい、新しい「田園」です。絶賛したいです。
 第7番はフルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、トランペット1、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1とコントラバス1とティンパニの15人の演奏です。第1楽章の序奏は管楽器主体の演奏にティンパニの響きが素晴らしい。弦楽は編成が「少ないと厳しいですがアレンジでカバーしています。提示部は小編成というハンディを感じさせない見事な響きです。なおホルンもアレンジによる普通には聞こえない音が出てきます。なお金管はホルン2、トランペットが1です。これでいつもの第七が聞こえてきます。2本のホルンが素晴らしい響きです。第2楽章のアレグレットは弦楽六重奏で始まります。大変生々しい響きになります。管楽器とティンパニが加わるとアレグレットの響きになってきます。後半の厚みのある響きはシュタンゲルの棒さばきのうまさでしょう。スケルツォは木管楽器とホルン、ティンパニが良い響きです。トリオの演奏も見事な響きです。弦楽の少ないことがあまり気になりません。見事なアレンジです。フィナーレのテンポの良さ、勢いのある演奏、管楽器のうまさ、弦楽のがんばり、これは素晴らしい演奏です。
 第8番はフルート1、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1とコントラバス1とティンパニの13人の演奏です。第1楽章冒頭が今まで聴いたことのない響きです。トランペットは入りませんのでトランペットのパートをホルンが吹く面白いアレンジです。第2楽章は管楽器のスタッカートの中にヴァイオリンが可愛らしく主題を演奏します。ここは管楽器のためのスケルツォのようです。第3楽章のメヌエットはトランペットのない響きが柔らかいです。ヴァイオリンがソロ・ヴァイオリンを弾くようによく響きます。トリオのホルン二重奏は素晴らしい響きです。コントラバスも聞こえます。フィナーレは弦楽四重奏に始まります。管楽器が加わって厚い響きになりますが、時折響きく弦楽五重奏の鮮やかな演奏が印象的です。
 第9番はフルート2、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット2、ホルン3、トランペット1、トロンボーン1、ヴァイオリン6、ヴィオラ2、チェロ2とコントラバス1とティンパニの22人の演奏です。ヴァイオリン・パートが2名ずつ増えて弦楽が聞こえやすくなります。アレンジは難しいですが聞こえるのは「第九」そのものです。第1楽章では冒頭から管楽器の響きが流れ、弦楽パートの少ないことがわかりますが、管楽器が補いますので見事な演奏になっています。展開部のクライマックスではティンパニのクレッシェンドと強打が素晴らしい演奏です。再現部でも木管が弦楽パートを支えるなど絶妙な響きを出しています。素晴らしい演奏です。第2楽章はリピートなしで演奏されていますの9分ほどで終わります。ここはティンパニの響きが素晴らしい。第3楽章は管楽器が主に活躍します。弦楽の主題が弱いのは仕方のないことです。第4楽章では序奏のあとに主題がきますが2本のファゴットが美しい和音を奏でます。4人のソリストが素晴らしい歌唱を聞かせます。バスのシュピングラーの「オーフロイデ」がホール一杯に響き渡るのが印象的、合唱は小編成のようですがよい響きです。オーケストラとのバランスが取れています。


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