1940年代の演奏

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1949)

CD(BMG 74321 29400)
ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  6:58/10:08/4:59/11:11
 (第1楽章、第4楽章リピート:ワインガルトナー版)
LP(ビクター MK-1073)
ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
  6:59/10:12/5:00/11:14
 (第1楽章、第4楽章リピート:ワインガルトナー版)

 エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮
   レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
   録音 1949年

 このレコードが国内盤で発売されたのは1975年のムラヴィンスキーが来日したときでした。それが戦後の古い録音でしたからびっくりですが、珍しいのですぐ買いました。音はよくありません。演奏はテンポが速く楽譜通りの演奏という印象が強いです。しかし随所に裏ワザをみせています。

 交響曲第5番第1楽章は速いテンポでしかも分厚い音で始まります。いっさいの思い入れは感じられず、インテンポですすんでいます。それだけに緊張感は高まりをみせます。ホルンのファンファーレは抜群の音です。展開部はこれがさすがにムラヴィンスキー、指定のクレッシェンドを極端にすることで演奏効果をあげているように思います。そして再現部でもファンファーレのあとのヴァイオリン、282小節から287小節の1拍目のsf(スフォルツァンド)をきちんとつけています。このsfをこんなに極端に演奏しているとは驚きです。楽譜どおりと、よくいいますがほんとに楽譜どおりにやるというのは大変なことだとつくづく感じさせられました。再現部の緊張感は凄いものでした。レニングラードのうまさはすでにこのころも変わっていないのに驚きです。
 第2楽章はゆったりとした主題がきれいです。ファゴットのヴィヴラートがソビエトのオケらしいところです。金管もときおりヴィヴラートをかけます。第2変奏の弦と木管の掛け合いはとてもきれいでした。木管四重奏はひなびたオーボエの音がチャーミングで味のあるものです。第3変奏の木管の8分音符は短めに演奏しています。第4変奏にあたるファゴットのソロはかなりのヴィヴラートでした。
 第3楽章は速いテンポです。ホルンのファンファーレは明るいですが、この楽章から音質の低下を感じます。トリオのフーガは厚みのある低弦の響きが素晴らしく見事な演奏を聴かせます。後半の弱奏の部分ではヴィオラの装飾音をはっきりとさせることで内声部の存在感を出しています。ここは普通はヴァイオリンのピツィカートに隠れてしまうのですがそこをはっきりさせることで不思議な雰囲気を出しています。これは凄いです。
 フィナーレは冒頭の音質が悪く、濁っています。音ゆれはなんとも困ります。そのためか強奏の部分が弱く感じます。提示部をリピートしていますので少しは許しましょう。展開部も音は悪いですが、しっかりと響かせています。第3楽章の回想だけ突然音がよくなります。再現部はよくないですね。提示部よりはまだいいですがこの音の極端な悪さがなければ大変な名演です。コーダの盛り上げ方とクレッシェンド効果など、さすがにムラヴィンスキーは凄い演奏です。

 正直なところ、フィナーレは疲れました。ニキシュのほうが安心して聴けます。原盤の保存がよくなかったのでしょう。1958年の第7が最新録音に聞こえるほどの差がありました。


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