2000年代の演奏

久石 譲/フューチャー・オーケストラ・クラシックス(2017)
CD(EXTON OVCL-00655)

ベートーヴェン/交響曲集
1.交響曲第5番ハ短調Op67「運命」
     (第1楽章、第4楽章リピート:原典版)
 6:40/8:04/4:33/10:02(29分19秒)
2.交響曲第2番ニ長調Op36

 久石 譲指揮
 フューチャー・オーケストラ・クラシックス
 (ナガノ・チェンバー・オーケストラ)
 録音 2017年7月15日(1)
     2016年7月17日(2)
    長野市芸術館メインホール・ライヴ

 久石譲が音楽監督をつとめるナガノ・チェンバー・オーケストラのコンサートライヴ録音です。2019年からフューチャー・オーケストラ・クラシックスに改名しました。このオーケストラは在京オーケストラはじめ国内の若手メンバーが集結した団体ですが、ホルンのトップにN響首席の福川伸陽氏を迎えただけあってその水準の高さがうかがえます。
 交響曲第5番ハ短調は第1楽章の冒頭から速めのテンポでフェルマータも短めです。何より注目したいのがティンパニの叩き方で「ンタタタンタタタ」の強弱付けです。この斬新さがこの演奏の面白いところです。この「ンタタタ」のリズムを常に目立つように演奏しています。提示部のホルンのファンファーレが実に良い響きです。展開部では管と弦の対話のさわやかなこと、よどみのない流れ、オーボエのカデンツァは速めのアンダンテのようです。再現部のファンファーレはファゴットで演奏しています。実に素晴らしいリズムに乗った演奏です。そしてティンパニの「ンタタタンタタタ」の鮮やかなこと斬新です。21世紀の新しい「運命」です。第2楽章は速めの「アンダンテ・コン・モト」です。主題が次々に歌われていきます。変奏のきれいなこと、管と弦の調和のとれた響きは小編成ならではの素晴らしさといえます。第2変奏のクラリネットとファゴットの追いかけっこは絶妙です。木管四重奏の流麗な演奏と響きは見事。続く全合奏でのティンパニの強打も凄いです。第3変奏からコーダへの圧倒的な演奏も素晴らしい。コーダ前のファゴット・ソロはは駆け抜けるようです。第3楽章はやや速めのテンポで颯爽とした演奏、ホルンのテーマも素晴らしい響きです。弦楽に始まるフーガは緻密で勢いがあります。トリオから結尾までの緊張感、ティンパニの強打、ここでも久石譲は見せ場を作っています。コーダのピツィカートからフィナーレへのクレッシェンドも圧巻です。第4楽章は重厚な響きで提示部は進みます。テンポは速めのアレグロです。提示部のリピートも凄い演奏で、益々ティンパニが張り切っています。展開部は管楽器の響きが素晴らしい。トロンボーンの豊かな響き、ティンパニの爆発に圧倒されます。第3楽章の回帰では木管が美しい響きを出しています。再現部はここも重厚な響き、そしてスピード感のある演奏、これほど興奮させる演奏があったでしょうか。コーダ前のホルンの主題が素晴らしい。ピッコロも良く響きます。プレストからの盛りあがりは興奮します。突っ走りながらも最後のフェルマータは長く、そして最後にティンパニの一打、これこそブラボーです。こんな演奏あっていいのでしょうか。まさにロックのようです。(第4楽章のリピートがあっての29分19秒でしたので、リピートがなければ27分23分という記録的な演奏時間です)
 交響曲第2番は第1楽章の序奏からただならぬ緊張感を感じます。やや速めのテンポで進んでいきます。提示部のテンポは速めでティンパニの響きは素晴らしくてこの第1楽章は「お祭り」のようににぎやかです。かつて聴いた2番の演奏の中でもこれほど面白いと思った演奏はありません。再現部の演奏も一糸乱れず小規模編成の良さがよくわかります。第2楽章のラルゲットは弦楽に受け継がれる木管の主題が大変美しいものです。弦楽との対話は素晴らしいものです。この歌はベートーヴェンの作品の中でも印象に残る名曲です。それにしても良いホールです。残響がきれいです。ホルンがよく響きます。第3楽章はスケルツォ、メリハリをつけた冒頭はこのスケルツォの魅力を存分に楽しませてくれます。トリオがまた素晴らしい。ppからffになる緊張感がたまりません。ティンパニの響きが絶妙です。第4楽章は良いテンポで入ります。弦楽の響きの良さ、木管楽器の美しい響き、このフィナーレがこんなに楽しいものだったとは。久石譲のテンポ運びはベートーヴェンの交響曲に新しいイメージを与えてくれるもので感謝したいです。ブラボーです。2曲共に21世紀の名演奏として絶賛します。


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